風がひどく強かった。

「こういう日はわくわくしないか?」
  と、男は言った。
「落ち着かないよ、昔と違ってな」
 そう私は答えると半そでのシャツを着て出勤した朝の自分を恨めしく思いながら身を震わせる。両手に持った買い物袋のせいで縮こまることもできない。
「つまらないやつだな、こういう日にしかできないこともあるだろう」
 と、男はやけに楽しそうにタバコを取り出す、が、歩きながらでは強風の中うまく火をつけられる筈もなく、掌で覆って灯したライターの火で自分の手をあぶってしまい、ぽとりとタバコとライターは地面に落ちた。
「たとえば、火傷を負ったりとか?」
 にやにやと意地悪い笑みを浮かべながら不器用に肩をすくめて見せる。
「たとえばだな、凧を揚げてみたりだとか、普段の風じゃ運べないようなものを飛ばしてみるんだよ」
 悪態をつくのもむなしかったのか、ただ面倒になったのかタバコもライターも路上に捨てたまま先を歩く私のもとに男がかけよってくる。
「そんなことよりも半分持ってくれよ、重いんだよ」
「てめえで買ったもんじゃねえか。自業自得だ」
「冷たいやつ」
 へっ、と鼻で笑うともう一本タバコをとりだし、今度はくわえたまま男は私の隣に続く。