トーキョーN◎VAリプレイ(仮題)後編

 蛇足ではあるが、色々読んで頂きたいことがある。
 色々な意味で「止まれない」男、ジョウ・ササキ。まずはこのリプレイは些か脚色してある上に、あくまでキャラの視点で物事を書くように心がけている事、事実とは違う個所が多々ある事、この2点を納得した上で読んで頂きたい。
 ちなみに、リンク先をクリックすればお分かりいただけるかと思うがゲームの著作権は製作者側にあり、このリプレイにも二次創作物としての版権が別に存在する。リプレイの場合は結局の所そのゲーム参加した人間全てに権利があるわけで、私は特に苦情が来ない間は好き勝手に書かせてもらうという立場を取っている。
 人、これを開き直りと言う。ちなみにこのリプレイ、後編はシナリオ上のイベントについても書く必要があるため、遊ぶ予定のある人にはお勧めできない物になったとだけはいっておこう。
 以上の事を踏まえた上で、前回の続きといこう。

 休憩のためのピットから各々の選手が発進するその前に、第2チェックポイントで一つ事件が起こっていた。
 逃げ出してきた花嫁、それを追うミュータントの群れである。
 正確には、花嫁衣裳を纏ったうら若き女性が今にもミュータント達に襲いかかられようとしている光景がコースを走る選手達の目の前に現れたわけである。
 で、前回のリプレイに書いたと思うが、ジョウはここでロケットスタートという技を使って、誰よりも早く彼女の前に駆けつけたのである。普通なら泣いて喜ぶべき場面であるが、このお嬢さんは
「遅いじゃないの、もう少しで捕まる所だったじゃないこのバカ!!」
 と、のたまい、ジョウの尻を蹴飛ばさんばかりに急がせた。(ああ!!)
 化け物達に囲まれているこの状況下で、回避する事を捨ててまで救出したのにこの仕打ち。私がジョウだったら「のし」を付けてミュータントに贈呈してしまいますよ、ええ。
 この後ジョウのmodel.XXは物の見事に大破してしまい、彼女は休憩所にはいるやいなや、他の選手に乗せてくれるよう交渉して去ってしまいましたが。その時に、礼金として彼女が大金をポンと支払った事から不審に思ってたずねると、どうやら彼女はレースの主催者の一人娘だという事が発覚。
 ここから、本来はシリアスな空気に包まれたゲームになるのだが……そこは「止まれない男」ジョウ・ササキ。彼は決してそんな支流に話の流れを移させない。(そうなった方がどれほどよかったか)
 中継されたら社会的な立場や信用を全て失うであろうジョウは、自らを追い込む意味も込めて胸にでかでかと「恥辱」と縦にペイントし、更に車体にかかれた自分のトレードマークに「恥辱暴走」という字を付け足す始末。今更あたまにヘルメットを被った程度じゃその怪しさに磨きがかかるだけだが、まだ開き直りきっていない彼はせめて顔が隠れていれば誤魔化せるかもしれないと甘い考えを捨ててはいなかった。もしかしたら、そう願っている気持ちは、優勝するというある少年との約束よりも強かったかもしれない。
「裏で主催者が、選手が全て脱落する、に大金を賭けている」
「傭兵を雇って選手を全て亡き者にするつもりらしい」
 などという話を件の花嫁から聞き出せたが、戦闘能力のない彼はただポイントを稼ぐのみ。途中で稲垣司政官の特殊車両が大破し、機関車で参加していた紳士が線路を破壊され脱落を余儀なくされ、選手陣も残す所5人。(1、2、3…あれ?)
 しかし、結局その騒動の中で全裸だという事をマリオネットのカメラで全国中継されてしまうジョウ。

最終チェックポイント

「兄ちゃんは、何が何でも勝つから。お前も頑張るんだ」
 その前にナニをしまえ、ジョウ。
 という、本来は最終地点まで残っているカゼと病気の少年が心温まる会話をするシーンも台無しにするN◎VAの世界に蘇った裸族。彼がシナリオのシリアスさをぶち壊しながらも、次の地点でしかけてくる事は目に見えているため(約一名を除く)選手陣は最後の調整をした。
 そして迎えた最後の難関。
「まっていたぞ、残念ながらここが貴様らの(以下略」
 どちらかというと、「そう来なければ貴方が出場してきた意味がわからないよ」と突っ込むべきだったが、ルーラー、もといウォーカーを怒らせると一撃で死ねるので無粋な言葉はぐっとこらえるジョウ。無論目の前に何がいようともアクセルをぐっと踏みこむ。
 戦闘はほぼアラシとクグツのプレイヤーの独壇場となり、良心が痛んだのかトーキーの協力でチューンされたmodel.XXは弾幕を越えてくる敵を辛くも乗り越える事が出来た。そしてその中でチューンに気付かず、機体が早くなっていることに気が付くやいなやジョウは叫んだ。
「服が重たかったから脱いだ分早くなったんだ!!」
 そしてその理論に従いヘルメットを脱ぐと、彼はついに開き直った。

そして、伝説へ

 雑魚が倒れ、ほっとしかけた瞬間、
「こうなったら貴様ら二人とも道連れだ!!」
 敵アラシの神業によって破壊されるmodel.XX、命を奪われるアラシ(ああ、紛らわしい)。
 そして、それを待っていたかのように忘れられていた稲垣司政官が非常識にも自転車で残った選手をごぼう抜きにして追い上げてくる。実は各所で集計されるポイント的にはトップと伯仲している彼の出現に、慌てる選手達。
 だがその時、抜群のタイミングでトーキーは残っていた神業を使った。「より面白い絵が撮れる」ように、ジョウに「大脱出」を使わせたのだ。
 燃え上がる車体から転がり出てきたジョウは、奇跡的に傷一つ負っていない体のまま立ち上がると、稲垣を優勝させてなるものかと走り出した。クグツがそれを援護するかのように稲垣の妨害をしてくれたが、ジョウはもはやそれを見ていなかった。
 ジョウは激怒していた。必ずかの邪知暴虐の男を抜き去らなければならぬと。もはやジョウは自分がどうなるかなぞ考えていなかった。少年との約束も関係なかった。あの男が出てこなければあの燃える機体と共に滅んでも一向に構わなかった。けれども、ジョウは痩せても枯れても、脱いでいてもレーサーだった。ジョウには2本の脚があり、この瓦礫と埃の道を越え、その先にある終着地点に付かねばならぬ。先につくのがあの男では、全てを投げ打って今まで走りぬいてきた自分は一体なんだったのかわからなくなってしまう。たとえ、それが屈辱の待ちうける地獄への入り口だったとしても、ジョウはそこにいくだけの理由が残っていた。ジョウはレーサーであった。
「おおっと、トップが見えてきた模様です!あれは稲垣選手、いや、それを抜きさって走ってくる人影が……あれはジョウ選手だ!!止まれない男、ジョウ・ササキが全裸で走ってきます!!何が彼をそこまで掻き立てるんだァ〜!!!」
 度肝を抜かれ、叫び声を上げるリポーター、そして観客達。
 今だかつて、走ってこのレースを勝ち抜いた選手の話なぞ聞いた事がない。いや、そもそも車両や飛行機、果てはウォーカーまでもが出場するこのレースでそんな馬鹿なまねをする人間など前例のありようがなかった。
「稲垣選手、ここまで来て悪運を使い果たしたのか先ほど抜いたクグツに抜き去られたぞ!!ああしかし、それでもジョウ選手の方が僅かに早い!!まさいまに、前人未到の全裸での完走者の誕生だァ!!」
 その身に残された力の一片までも使いきり、それでもジョウは辿り着いた。ここにレーサーは乗り物に乗ってゴールする、という常識は覆されたのである。
 そこには「乗り物に乗っていないからこの結果は無効だ!!」と主張するような無粋な人間は一人もいなかった。満身創痍のまま全裸で表彰台に登り、優勝トロフィーを受け取るジョウに、トーキーがここぞとばかりにエクスポーズによる全国放送のインタビューを敢行したのはいうまでもない。

エピローグ

「すごいよ兄ちゃん!本当に優勝しちゃうだなんて!!」
 翌日、ジョウはライダースーツに身を包み、優勝カップを片手に少年の病室を訪れた。約束を守ってくれた男に抱き着こうとする少年をジョウは引き止めた。
「頼む、俺を殴ってくれ。俺は一度、途中で悪い夢を見た。優勝を諦めようと真剣に悩んでしまったんだ!お前が殴ってくれなくちゃ俺はお前と抱擁する資格すらないんだ!!」
 一度は戸惑ったものの、姉に促がされて少年はジョウを殴った。力いっぱい、ジョウの股間を。少々脂汗を流しながらも、少年と抱き合うジョウ。あきれ過ぎて眩暈のするとでもいいたげな少年の姉。
 そして、少年は再び約束をした。
「おれ、絶対兄ちゃんのようなレーサーになるよ!」
「よし、絶対だぞ!だが、その前に手術を受けなきゃな」
「わかってるって」
 親指を立てて笑い合う二人。ふと、その時姉がそとが何やら騒がしくなってきている事に気付く。どうやらジョウがこの病院にきている事が彼のファンとなったレーサー達にばれたようである。
「俺、そろそろいくよ」
 二人に別れを告げ、病室を後にしようとするジョウ。
「兄ちゃん、俺、病気が治ったら会いに行くよ!」
「ああ、早く元気になれよ!」
 ジョウは振りかえらずに親指を立てて見せると、彼らの前から去っていった。

 この後暫く、「止まれない男」にあやかって速さを求めるカゼの間では、全裸でいる時でも局部を隠すサイバーウェア、『モザイク』が流行する事となるのだが、それはまた別の話である。「止まれない男」ジョウ・ササキは、確かに運命の路を駆け抜けたのであった。
 トーキョーN◎VA The Detonation公式シナリオ
         「Lightning Tour」リプレイ・完

このリプレイを、今回のルーラー・速瀬アリア氏、そして共にプレイした方々に捧げる。


2004年11月24日 水曜日 正直、やりすぎた感が否めない中
                                    虫食いパン